豊かな国の幼き子らよ 05

第五章 中庭  今の自分が十歳の子どもになったと仮定してみよう。  爽太はペンの先で、ノートの白いページを軽くおさえる。実際、どれくらいの年齢の子どもになってしまったのかはわからないけど。  大人にな…

レトロスケープ

 子どもの頃、私の家族は郊外の団地に住んでいた。人見知りで臆病な子どもだった私は、あまり遠くへ行こうとしなかったため、広大な団地の地理すらもろくに把握できないまま小学生になった。  ある日曜日の午後、…

歪んだ王国に生まれなかった私たち

「白馬の王子様なんて、いないんだよ。でも、その人は王子様なの。白馬もお城も宝石も持ってなくて、どこかに幽閉されてるんだけど、王子様なの。その人がね、私を愛してくれるの。偽りの愛だけど、私たちにはそれし…

世界は砂色の墓標

 僕はもう自分の名前を忘れてしまった。  だから出せない手紙のように、ただ言葉だけをここに刻もう。  名前さえも忘れてしまうほど、僕はずっと砂色の墓の中にいる。  生きたまま。 *  砂色の世界で彼女…

豊かな国の幼き子らよ 04

第四章 王の幼き子  一週間ほどたつと、従者が何冊かの新しいノートを持ってきた。ボールペンに似た筆記具も添えて。 「はいこれ、爽太にあげる」  夕食から戻ってきたばかりの爽太に、テオがそう言ってノート…

豊かな国の幼き子らよ 03

第三章 滞留  夕食を終えて部屋に戻り、テオとふたりでベッドに腰を下ろす。食休みのあいだの雑談で、テオは刺繍の模様の意味について教えてくれた。 「龍の模様は国王陛下と妃殿下、それから陛下のオサナゴしか…

豊かな国の幼き子らよ 02

第二章 火種  自分の身に起きたのが信じられないことばかりで、ショックを受けて寝つけなかったら困るなぁと思ったのに、ぐっすり眠ってしまった。  目を開けて真っ先に考えたのは、そんなことだ。  レースの…

豊かな国の幼き子らよ 01

第一章 迷宮  目を覚ますと知らない世界にいた。  なんかこういうの、漫画や映画で見た気がする。  爽太は何度かまばたいてみたが、目の前に広がる光景は変わらなかった。色とりどりの模様を描いた壁、やけに…