谷山浩子『月に聞いた11の物語』は影のあるおとぎ話をつめこんだアルバムでした

谷山浩子のアルバム『月に聞いた11の物語』はもう買いました?
私はAmazonでCDを買った上に、iTunesでも買いました。CD買うの何年ぶりやろ。歌詞カードほしかったんですよね…。

Amazonでは45周年記念コースターつきのものを買った。

ちなみにAmazonデジタルミュージックでも買えます。iTunesと同じ価格。

歌詞カードが絵本みたいでかわいかった!

Hiroko TANIYAMA's new album!! It looks like a picture book😊 #谷山浩子

ToLiさん(@tolitorey)がシェアした投稿 –

今回はYouTubeに公式トレーラーもあります。

何曲かダイジェストで聞けるよ。

てなわけでアルバムの感想いってみよー。

曲目

  1. きつね
  2. サンタクロースを待っていた
  3. 旅立ちの歌
  4. 城あとの乙女
  5. 白雪姫と七人のダイジョーブ
  6. 無限マトリョーシカ
  7. ジリスジュリス
  8. パズル
  9. 螺旋人形
  10. 秘密の花園
  11. 金色野原

1曲ずつの感想

いろんな人が言ってるけど、本当におとぎ話を集めたようなアルバムです。しかもちょっと暗い話。

きつね

元ネタは宮沢賢治『土神ときつね』。

どこか少し薄暗い雰囲気の童話が始まりそうなメロディー。
NHK教育にありそうじゃない?こういうイントロで始まって、お姉さんが静かに童話を朗読して、画面にイラストが出てくる…っていう番組。今はもうないのかな。

この宇宙を お作りになった 神様はきっと
どんな屑でも 愛してくださる だけど僕は 屑ですらない

この歌詞からにじみ出る、きつねのキャラクター。
なんとなく『山月記』の李徴を連想しました。自分はすごいと思ってたけど実際は…っていう。

歌詞カードのイラストは、歌詞にも出てくるグリフォン。

サンタクロースを待っていた

浩子さんの人生で2本目のクリスマスソング。
1本目のクリスマスソングは、40周年ライブで披露された「クリスマスツリー」です。これは浩子さんが10歳の時のものなので、2本目のクリスマスソングをつくるのに50年かかったってことですね…。

アルバムリリース前のインタビューで浩子さんが「1本目のクリスマスソングは諸行無常でしたけど、今回も無常を歌ったクリスマスソングです」みたいなこと言うてはったんですけどね。
無常というよりこれは…ホラー…?

クリスマスらしく明るいメロディーと、恐ろしい歌詞の落差がひどいよ。
何も知らずに曲を聞いて「なんかいいねー」とか思っちゃって、歌おうとして歌詞を調べたら仰天するやつだ。

黒い服着たサンタクロース 煙突からはいってきた
黒い服着たサンタクロース 煙突なんてないのにね

友達が「それ、泥棒じゃないの…?」ってツッコミ入れてた。私もそう思います。

歌詞の後半になると「トナカイは骨だけさ」「きみは生きているのかい?」「ぽとり落ちたしゃれこうべ」などと、直球でやばくなっていく。
確かに無常だが…なんか思ってたのとちがうぞ…!(褒め言葉です)

歌詞カードのイラストは、骨になったトナカイが引くそり。そりに乗っているサンタクロースは化け物じみた風貌。

旅立ちの歌

MEGさんへの提供曲。
以前、大阪ライブで聞いた時は「『旅人』そっくりやんけ!」って思いました。実際、そういう曲をつくってほしいというオーダーだったらしい。

アルバムでのアレンジは、そこまで「旅人」と同じじゃなかった。
ライブの時はピアノソロだから、似ている部分が際立ったのかもしれないね。
歌詞はMEGさんが歌ってるものと若干異なるそうです。

歌詞カードのイラストは、月と窓。

城あとの乙女

ファンタジックな悲恋の歌と思いきや…これ…幽霊の歌…。
だってこの娘、恋人を喪って、雪の日に窓から飛んでるよね?!

千年の時が流れても、彼女はお城の跡地で恋人を待ってるよ…という美しい感じで終わってますけど、千年の時を超える人間はいません。幽霊です。

浩子さんは「荒城の月」のイメージでつくったそうです。
私の中では「鳥籠姫」と同じジャンルの歌になりました。

歌詞カードのイラストは、乙女の横顔。髪留めが三日月ですね。

白雪姫と七人のダイジョーブ

タイトル見た時に「は?」と思ってたんですが、とても好きな曲です。

浩子さんいわく「現代人の不安についての歌」なんですけど、その「不安」については過去のアルバムのインタビューでも、百科事典のインタビューでも近いことをおっしゃってた気がする。
いろんな職業の人が現代社会を支えていて、現代人はその助けがないと生きていけないっていう。ひとりで生きていけるぜって顔をしていても、本当はそうじゃない。
農業、物流、インフラ、いろんなものがあって初めて「ひとりで生きていけるぜ」というスタンスが成立する。電気だって水道だってコンビニだって全部。

曲は明るいんだけどね、どこか切なく悲しいものがあるの。
働き疲れている人の歌にも聞こえるし、監禁愛の歌にも聞こえる。特に後者は「『王国』の続きの歌に聞こえる」という感想も見かけました。

ケガや病気の時は 僕が治してあげる
強い鎮痛剤もある 一瞬でラクになるよ

私が特に好きな歌詞はこの部分。
「ナマコ」「ハタハタ」「三葉虫」「二毛作」など、あまり他のアーティストでは見かけない単語を歌詞に入れてくる浩子さんですが、「鎮痛剤」はこの歌が初めてじゃないかな?

歌詞カードのイラストは、白と黄色のさわやかなお花。名前忘れた。

無限マトリョーシカ

上坂すみれさんへの提供曲。
ライブで散々聞いてたから、やっとアルバムになったね!という気持ち。

The MANJIと谷山浩子が組んだユニット「からくり人形楽団」によるアレンジです。随所でROLLYさんの合いの手が入る…ヘイ!

これ、作詞は谷山浩子で、作曲は「謎のロシア人」とされているリェスノーイプチシェーストヴニク氏なんですけど、誰?
ロシア語が読める人に聞いたところ「森の旅人」という意味だそうで…つまり人名ではない。
上坂すみれさんの事務所なら作曲者の正体をご存じかもしれませんね…。

歌詞カードのイラストは、月と星。むしろ星空。

ジリスジュリス

文句なしに白い曲。明るくてかわいい。リスの歌。
ジリス(地上性リス)と樹上性リスの歌です。ジリスは実在する単語だけど、ジュリスは浩子さんの造語。

特に冒頭は歌詞カードを見ないと歌えない。わざとそういう呪文めいた歌詞にしているそうです。

「無限マトリョーシカ」にはムササビが出てきて、その次の「ジリスジュリス」にはモモンガが出てくる。だからどうだってわけじゃないんですけど。どっちがどっちだっけ、ムササビとモモンガ。

歌詞カードのイラストは、ワンピースを着たリスとお花。多分これはジュリス。

パズル

てんかすトリオへの提供曲。これもライブで何度か聞きました。
提供時のタイトルは「Puzzle」でしたが、大人の事情か、カタカナのタイトルに変えての収録です。

アイドルユニットへの提供曲なので、浩子さんがアルバムに収録したバージョンでは趣向を変えて、大人っぽくテンポを遅らせ、バッドエンドにしているとのこと。

この歌もしれっと「戒厳令」なんて単語が出てくるぞ…。

歌詞カードのイラストは、月とウサギ、それから迷宮をイメージしたと思われる建物の一部。

螺旋人形

私は聞いたことなかったんですけど、友達がライブで聞いてアルバム収録を心待ちにしていたらしい1曲。
静かにささやくように恐ろしい物語が進んでいく、そんな歌。

螺旋人形あらわれ
代わりに消える 誰かが

ひとりずつ消されていく歌に聞こえるよ…。目玉や死んだ子の数を数えてるし…。

螺旋人形なので、いろんなものがねじれます。月、夜、窓、指、翼、花、頭、蛇、体…。
「すぐ逃げろ」って歌ってるけど、どうやって逃げたらいいの?

歌詞の一部にロマ語が使われてる。

歌詞カードのイラストは、恐らく歌詞にも登場している黄金虫(コガネムシ)

秘密の花園

アルバムに収録されるのをすごくすごく心待ちにしていた1曲です。めっちゃうれしい。

新居昭乃が作曲、谷山浩子が作詞。このふたりが掛け合うように歌う歌。
しかもアレンジは新居昭乃の音楽を長らく担当している保刈久明。

インタビューによると、先に昭乃さんが歌を収録していたため、あとから収録した浩子さんは普段と歌い方を変え、昭乃さんに近づけて(寄せて)歌ったそうです。
おかげで幻想的な雰囲気に。

ライブで聞いたとおり、時の止まった花園に男の子を閉じこめて死なせる歌でした。美しくて最高…。
「王国」に似てるんだけど「王国」とはまた別のやばさがある。

「王国」は男の子が女の子をお城に閉じこめて、偽りの愛の歌を語るって感じなんですよ。
恋愛としては初手からミスってしまって、全然その思いは届かないんだけど、ふたりきりだから彼女は逃げることもできず、「歪んだ王国」に住んでいる。

でも「秘密の花園」は幼い男の子が、友達になりたいと思った男の子を閉じこめちゃうイメージなのね。
ひとりぼっちで淋しくて、閉じこめればふたりで遊べるぞ!と思って閉じこめたらやりすぎちゃって、彼は「二度と目覚めない」。

この主人公、人間じゃない感じがするよね。
人間とは異なる時の流れに生きている魔物か何かが、人間の男の子を気に入って連れ去ったらうっかり死なせてしまった、という歌にも聞こえる。

「王国」の時みたいに、この歌の同人誌がいっぱい出そうだよ…。
(最近は同人誌じゃなくてネットの小説やイラストのほうが多いかもしれんけど)

歌詞カードのイラストは、扇子のようなピンクと赤のお花。ネムノキ?いやちがうな…。

金色野原

手嶌葵さんへの提供曲。
梨木香歩『西の魔女が死んだ』が映画化された際の主題歌コンペのために生まれた曲。

1度だけ、ライブで聞いたことあるんだけど、このブログを始める前だったからライブレポは残ってない…。猫森2008年Aプロ。
かわりに浩子さんのサイトのライブアンケート紹介ページを。私もA1、A2両方に載ってた(当時24歳)

とてもやさしくて白い曲です。
なぜか私の中では大島弓子の漫画のイメージなんですけど、どの作品なのかよくわからないや。

今までの薄暗く恐ろしい歌が、すべて最後にまとめてふわーっと浄化されましたね!
そのためにラストに持ってきたとしか思えない曲順。

歌詞カードのイラストは、ヒイラギ…?いや、それにしては葉が細すぎるな。
植物のイラスト、ことごとく名前わからない。

その他

このアルバムについて「オールベクシンスキーだ」と感想を述べている人がいたので、ぐぐってみた。
ポーランドの画家ズジスワフ・ベクシンスキー。
…「終焉の画家」というキャッチコピーで察した。

黄昏が見せた幻想的な悪夢って感じですね。

まだお持ちでない方は是非…CDでもiTunesでもAmazonデジタルミュージックでも…。
歌詞も音楽も曲順も歌詞カードの装丁もすごくいいから…。

ちなみに歌詞カードが絵本っぽいって言ったじゃないですか。
歌詞のページには、布をかかげた両手首が描いてあって、その布のところに曲名が書かれてるんですけどね。
その布をかかげてる手首、どう見ても人間の手首じゃないです。