Kindle書評『グラン・ヴァカンス』『ラギッド・ガール』『天冥の標Ⅸ PART1 ヒトであるヒトとないヒトと』

本日は、SF小説3本立て。
ハヤカワ文庫のセールでぽちった飛浩隆の「廃園の天使」シリーズと、『天冥の標』最新巻です。

感想いってみよー。

飛浩隆『グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ』


大原まり子とか、飛浩隆とか、そういう雰囲気のSFが好きなんですよ。
こう、どことなくおとぎ話っぽかったり、言葉の紡ぐイメージがきらめいていて美しかったりするSF。
伝わるかな。

大いなる夏休みと、その終わり

「廃園の天使」は、〈数値海岸〉(コスタ・デル・ヌメロ)と呼ばれる仮想リゾートについてのお話。

1巻目となる『グラン・ヴァカンス』では、あまたある〈数値海岸〉の中のひとつである〈夏の区界〉という区界が舞台になっています。
(ひとつひとつの〈数値海岸〉は区界と呼ばれている)

〈数値海岸〉は、区界ごとにさまざまな世界観があり、ゲストとなる人間たちをもてなす大勢のAIが生活している。
人間たちは好きな役割(ロール)を買って、区界での滞在を楽しむ。

ところが、ある日ぱったりとゲストが途絶えて、ひとりも来なくなってしまった。
予約がたくさん入っていたはずなのに、誰も来ない。
でも、区界を維持する電源は落ちていないので、〈数値海岸〉を経営する会社がなくなったわけではない。いったい何が…?

AIたちは人間の訪れを待ちながら、同じような毎日を千年くり返している。
そして、人間の来ない日々が当たり前になってしまった頃、謎の蜘蛛が〈夏の区界〉に出現し、区界を無化し始める…その直前から『グラン・ヴァカンス』は始まります。

この世界の描写がね、とてもきらきらしているの。
美しく幻想的で、どことなく懐かしさすら感じさせる、レトロな夏の街。
襲いかかる蜘蛛との攻防すら、幻想的。

この話で描かれている時間は、そんなに長くない。
というか、蜘蛛との一昼夜における攻防戦で話は終わる。
しかし、その一昼夜のうちに、いろんなことがわかってくる。

半分くらいまで読んだあたりから、だんだん〈数値海岸〉のおぞましさが見えてきます。
ゲストの人間たちが、この仮想リゾートでどんな欲望を満たしていたのか。
それをもてなすAIたちが、どれほど傷つき、苦しみ続けてきたか。

個人的にハイライトをつけたのは下記。

きみの不幸はすべてきみを土壌に咲いている。だからそこから逃げることはできなかったのに。

直前にも「自分の甘さに甘えている」という容赦ない一文が。

自分のなかの暗黒をたてつづけに正視することは、たとえAIであっても、できることではない。

人間と同じように感情や思考を持ち、ゲストをもてなすようにつくられたAIたちは、ゲストが来なくなった千年のあいだに少しずつ変容していくし、区界の設計者によって与えられた「過去」のトラウマをかかえている。

飛浩隆『ラギッド・ガール 廃園の天使Ⅱ』


そして、2巻目となるこちらは短編集です。

仮想リゾートと蜘蛛の来歴

〈数値海岸〉がどうやってできたのか。
〈数値海岸〉はどういう仕組みで、ゲストを受け入れて遊ばせているのか。
〈数値海岸〉にゲストが来なくなったのはなぜなのか。
〈夏の区界〉を無に帰した蜘蛛は、いったいどこから来たのか。

そのへんの謎が、さまざまな時間の、さまざまな人を主人公にした短編で明らかになっていく。

「蜘蛛の王」に出てきた「父さん」って、「クローゼット」に出てくる「浅生たがね」のことかな?
なんとなくそう思ったんだけど、根拠はない。

個人的に1番好きなお話は「魔術師」。
ふたつの視点の話が交互に出てきます。

片方は、鯨をつくる区界で、そこを訪れているゲストの男の子。
もう片方は、現実の世界で、〈数値海岸〉の倫理的な問題点を指摘し、攻撃を続けてきた活動家に対して、インタビューしている男性。

個人的にハイライトをつけたのは下記。

ひとのあらゆる個性は、生まれ落ちたときの初期条件と、五官をとおしてストリーミングされてくる環境情報、極端にいえばただその二つだけから作り出される。

情報的似姿って面白いね。
私は普段SFを読まないので、このアイディアがよくあるものなのか、そうではないのか、判断つかないですが。

技術的に絶対不可能であっても、間に合わせの代替品をこしらえてしまう。それでじゅうぶんだ。人がもとめているのは理論の完成ではなく、欲望の痛みを鎮めることでしかない。

欲望の痛み…。

「(前略)君はとても利発だね。だからまわりを退屈に感じる。でもそれは、君自身が救いがたいほど退屈で凡庸であることの裏返しだよ」

わーお!

小川一水『天冥の標Ⅸ PART1 ヒトであるヒトとないヒトと』


『天冥の標』の最新巻がようやくKindle化されましてね!
あっというまに読んでしまった。

※『天冥の標Ⅷ ジャイアント・アーク PART2』は、『天冥の標Ⅶ 新世界ハーブC』と同じ記事に感想があります。
読む順番が前後してしまったので。

星の外側には、さらに大きな潮流が待っている

ついに、ついに物語の最先端の全貌が明らかになりつつある…。

混乱が続く中、メニー・メニー・シープの人々が「シーピアン(メニー・メニー・シープ人)」としての意識を持ちつつある一方、ラゴスは長きにわたる自分の記憶を取り戻し、救世群の目的を知る。
宇宙船さながらに乗っ取られて移動し続ける惑星セレスの行き先も。

だいぶ前の伏線、カルミアンたちの母星の話が、ここへ来てようやく回収された!
と思いきや、新たな謎を残して話は続く…。

そして、1巻目にもちらっと登場していた、偵察隊と思われるふたり組が、主人公たち(カドムやイサリなど)に合流。
彼らの背後には滅ぼされた太陽系人類の末裔と、巨大な軍隊があった。
その目的とは…。

最後に、ダダーのノルルスカイン。ふたつの副意識流(トリビュータリ)が出会い、それぞれの情報を交換する。
惑星セレスの外(つまり宇宙空間)では、さらにもっと大きな戦争が始まっていた…。
えらいこっちゃやで。
これ、ミスチフと関係あるのかな?ありそうだなー?

個人的にハイライトをつけたのは下記。

人間は食べ物にもお金にも愛する人にも、完全な満足を見出すことはできない。今この瞬間の充足だけを目的とすることはできない。

国としてのメニー・メニー・シープを立て直そうとする一場面にて。

余談:今読んでいる本


『くまのパディントン』の原書。
日本語訳の本は子どもの頃に読んだ。懐かしいなぁ。
100円だったので、思わずぽちっと。
英語が苦手なくせに、性懲りもなく洋書を買ってしまった…。

積ん読・読みかけの本があわせて2冊。もうちょっとで消化できるぞー。