本当に結婚したいんですか?

私の母は、子どもが好きではなかった。
そういうところは、私と大変よく似ている。

もともと、母はお嫁さんに向いているタイプではなかった。
根っから従順ではなかったのだ。

母と女と妻と

母は子どもの頃から「女だというだけで、なんでこういうこと言われるんだろう」と疑問に思っていたという。
動きづらいスカートを面倒くさがった母は、私服の高校で、スカートを履かずにジーパンで通した。
同じ学年で、そんな女子は他にひとりもいなかった。

母の知り合いにも、普段スカートを履かない女子がいたらしい。
ある時、彼女がスカートを履くと、同じ学校の男子から、
「へえ、てっきり脚にアザか何かがあって、それを隠したいからスカートを履かないのかと思った」
と言われたそうである。

ひどい発言だが、
「当時はそういう時代やったんよ。女はスカートを履くもんやと思われてたから、履かへん女にはよっぽどの理由があるんやと思われてた」
と母は言った。

そういう時代。
実際、母は数知れない疑問をいだいていたのだが、すべてに反抗することはできなかった。

たとえば、親戚づきあいの盛んな家だったので、そのたびに女性陣は老いも若きも料理をさせられたらしい。
母は卵焼きをつくる担当で、しょっちゅう卵焼きを焼いていた。
だから今でも母は卵焼きをつくるのが非常にうまい。
卵焼き用のフライパンなどなくとも、普通のフライパンを使って、薄くきれいに巻いた卵焼きをつくる。のみならず、海苔を一緒に巻いた卵焼きすら簡単につくってしまう。
高校時代の友達は、私の弁当を見て「あんたのお母さん、ホンマに卵焼きつくるの、うまいなぁ!」と何度も言っていた。
ちなみに我が家の卵焼きは醤油味である。

当時にしては珍しく、私の母も、母の姉も、四年制大学を出ている。
男ですら大学に行く人は今ほど多くなかったし、ましてや女を大学に行かせる家なんてあまりなかった。せいぜい短大とか、その程度。
母の地元では、大半の女性が高卒だし、ちょっと田舎の方へ行くと「うちの母親は中卒だよ」という人もけっこういる。

そういう意味では、母は恵まれていたのだが、大学を出ても女ができる仕事は限られている。
たまたま地元で正社員の仕事を見つけたものの、事務所が郊外に移転してしまい、やむなく退職したという。
「当時、あの近辺は今よりもっと田舎やったから、夜は暗くて危なかった。車を持ってなかったら通勤できないし、女の給料で車を買うこともできないし、辞めるしかなかった」
と母は言う。

車を持っていないどころか、当時の母は車の免許も持っていなかった。
母が免許をとったのは、私が小学生になった頃である。
昔は女が車の免許をとろうとすると、教習車という密室の中で教官に散々暴言を吐かれたりセクハラされたりしながら、それに耐えねばならなかったらしい。母はそういう体験をせずに済んだが、母より少し年上の女性のエッセイに、そう書いてあった。

また、母が若かりし頃、京都でSFファンのイベントが開催された。
会場は宝ヶ池のあたりだったそうなのだが、これまた当時はかなりの田舎だった。
そんなところへ独身の若い女ひとりが、泊まりこみで参加しに行くなんて、とても許されることではなかった。
だから本当は行きたかったのに行けなかったのだ、と母は残念そうに言っていた。

そして、事務所の移転で会社を辞めた母は、バイトを始めたのだが、そこのバイト先で父と知り合って結婚する。
「当時は20代前半で結婚するのが当たり前だったし、大学在学中に結婚する人や婚約する人も珍しくなかった。私は独身期間がけっこう長かったから、そろそろせんとまずいかなぁ、と思って。この先、結婚せーへんと暮らしていけへんかったし」
と母は言う。

結婚するまで、母は実家を出たことがなかった。
当時は「結婚前の女がひとり暮らしをするなんて」という目で見られたからである。
だから母は、実家から通える大学に通い、実家から通える職場に通い、通えなくなったら辞めた。
今までの人生で、母はひとり暮らしをしたことがない。

結婚後、母は専業主婦となり、ほどなく私と弟を産んだ。
「なんでって、結婚したら子どもを産むのが当たり前やと思ってたから」
と母は言う。

そういう時代だった。

好きじゃなくても慣れる

女として求められることに、女だからこうしなさいと言われることに、母は疑問を感じつつ、時には反発しつつも、結局は従って生きてきた。
子どもが好きではなかったけれども、子どもを産んだ。

母は家族の前では、無駄に正直な人である。きれいごとを言わない。
以前、子どもだった私に対して、「私かて子どもは好きちゃうもん」とぶっちゃけたものだ。

しかし、続けてこう言った。
「でもな、子どもが好きじゃなくても、産んでみたら自分の子はかわいいと思えるし、毎日一緒に暮らしてたら小さい子どもにも慣れるし、よそんちの子どももそれなりにかわいく思えて声をかけたりできるようになるねん」

なるほど、オキシトシンが出たわけですね。あとは慣れなんですね。

「だから、別に子どもが好きじゃなくても大丈夫やで。子どもが産まれたらちゃんと育てられるで」
と母は言ってのけた。

おかげで、私は自分が子どもを好きではないという点について、さほど心配していない。
ただ、子どもをほしいかどうかは別問題だし、子どもを産みたいと思ったことは1度もないのだが。

結婚とか結婚とか

最近、「私はホンマに結婚したいんやろか?」と思うことがある。

以前は結婚したいと思っていた。
婚活には興味がないけど、今の彼氏と一緒にやっていきたいから結婚したいと思っていた。
なにしろ結婚している方が、税金の面でも、日常生活のやりとりでも、何かと便利だからである。公的な家族だとみなされているだけで、周囲の扱いはけっこう変わるからだ。

もちろん、事実婚であってもほとんど同等の待遇は受けられるが、私は彼氏と同居してまだ1年しかたっていないので効力がない。それ以前に、住民票を統合していないので事実婚になっていないのである。
(しかも彼氏は保守的な人なので、事実婚をしたいと思っているわけではない)

子どもはどっちでもいいやーと思っているので、「結婚した方が便利だから結婚したい」と言っていた。
(子どもがほしかったら、そういう理由で結婚したがっていたと思う)

でも、「便利だから」という言葉は、彼氏にとっては響かない。

彼氏は保守的な人だし、彼氏の親御さんも「早く孫の顔を」と思っているようなので、「結婚したら子どもはひとりくらい産んだ方がいい」と考えている。
何度聞いても「子どもがほしい」ではなく「子どもは産むものだ」という義務感に満ちあふれた答えが返ってきた。長男なのだ。

ところが、私は今年の秋で32歳になってしまうので、妊娠できる年齢の上限はどんどん迫ってきている。もしかしたら、とっくに来ちゃってるのかもしれない。そして、出産後の育児を思えば、若いうちに産んだ方が有利だろうことは想像できる。
つまり、本当に子どもがほしいなら、早めに結婚して準備した方がいいわけである。

しかし、彼氏は私より5歳年下なので、若いし、もうちょっと遊んでいたい。すぐに結婚して育児に追われたくないのだ。その気持ちはめちゃくちゃよくわかるし責められない。だって私も独身のまま20代をすごしたもんな…。

というわけで、彼氏は今のところ結婚する気がない。
他にも「あなたが正社員じゃないから」「あなたのメンタルが弱いから」などといろいろ言われて、条件で選ぶなら結婚相談所に行って婚活すればいいじゃねえか…とは思ったけど。
(もっと男の本音ぶっちゃけたことも言われた。ただ、さすがにそれは書けない)

身内相手にきれいごとを言ってごまかさないという点において、彼氏は私の母と似ている。
私と別れて、もっと若い女と結婚して子どもを産ませるという可能性を、彼氏は一切否定しない。
「将来、何が起こるかわからんから、そんなことないよーとは言えないね。だからあなたは俺に捨てられないようにがんばってね」という趣旨のことを言うだけだ。
確かにその通りである。

ただ、そうなってくると、「私はホンマに結婚したかったのかなぁ」と思い始めるのだ。

私は特に子どもほしいわけじゃないよねー、相手がほしがってるし、ほな産めそうなら産もうかなって感じやし…。
そいでもって私は養ってもらってるわけじゃないし、相手を養ってるわけでもないし…。
一緒に暮らしてるから、それで割と満足しちゃってる部分は大きいし…。

ここで私が「結婚して家族をつくりたい!あわよくば養ってほしい!」と強く思っていたのなら、なかなか結婚しようとしない彼氏と別れて婚活に励むだろうけど、そういう動機がないもんだから、「あれ?もしかして結婚したいわけじゃなかったのかな?」っていう。

母が若かった頃とは、時代も変わり、社会情勢も変わった。

「かくあるべし」というきまりごとが相当崩れ去っていったことで、かえって自分が何をしたいのか、本当はどうした方が生きやすくなるのか、わかりにくくなった。

職場の後輩(♀)に、最近こんなこと思っててさ、と話をした。
「とりさんは『女の子』って感じがするんで、結婚した方がえぇんちゃうかと思いますけどねぇ…」
と彼女は言った。
どういう意味合いなのかは、わからない。

でも、なんで私は男の人としか結婚できないんだろうな。
男の人ってあんまり好きじゃないのに、私の恋愛対象になるのは男の人ばかりで、なんでやねんって思ってる。