ジャレド・ダイアモンド 『銃・病原菌・鉄』上下巻(文庫版)を読んだ

タイトル:銃・病原菌・鉄
副題:一万三千年にわたる人類史の謎
著者:ジャレド・ダイアモンド
訳者:倉骨彰(くらほね・あきら)
巻数:上下巻
レーベル:草思社文庫

ジュンク堂書店の世界史のフロアで平積みされているのを眺めながら、文庫化されるのを、ずーっとずーっとずーっと首を長くして待ち続けていた本です。
ある日、知らない人の「ついに文庫化されるよ!」ってツイートが、リツイートされまくってきたおかげで、文庫化されるのを知った。どうやら、他にも熱心に待ち続けていた人が大勢いる模様。

買ってきて読んでたら、父と弟の両方から、
「あ、それ買おうと思っててん。あれやろ、『ゼロ年代の50冊』の1位になった本やろ?貸して貸して」
と言われましたよ。
本当にふたりとも同じこと言ってた!w

大学時代の、とある授業に出てきた内容を、深く広く掘り下げてくれた1冊

大学時代、ものすごく面白い授業がありました。
それは、高校までの授業で教わった世界史を、別の角度から俯瞰して見せてくれる授業でした。

  • モンゴル・ウルス(モンゴル帝国)は、何がすごかったのか?
  • 太陽の黒点が激減し、地球全体が寒冷化したマウンダー極小期(1645-1715年)に、世界各地でどのような社会の変化が起こったか?
  • 当時、世界で最も発展していた中国よりも、後進地域だったヨーロッパが大航海時代を迎え、アメリカやアフリカを植民地化して成り上がっていけたのはなぜか?
  • 印刷技術の発展や植民地からの茶葉の輸入→喫茶店でお茶しながら新聞読んで議論するという新たな生活習慣が生まれる→そして…

などなど。
うろ覚えなのでうまく説明できないんですが、いろんな断片は覚えてる。
その中のひとつに、「農耕や牧畜は、人々に病原菌への耐性を与えた」という話があった。

ヨーロッパ人がアメリカ大陸を「発見」した後、アメリカ先住民(いわゆるインディアン)を虐殺して土地を乗っ取って、それが現在のアメリカ合衆国につながっているのは有名な話ですが。
多くの先住民は、ヨーロッパ人に直接殺されたのではなく、彼らが持ちこんだ各種の伝染病によってすさまじい勢いで死んでいった。
理由は、彼らが狩猟採集によって食糧を得ており、農耕民や牧畜民のように家畜との間で病原菌のやりとりをしておらず、多くの伝染病に対してほとんど免疫がなかったから…。

この話は非常に印象的だったのですが、まさに『銃・病原菌・鉄』は、それについて詳しく説明しているのです。
それのみならず、「なんでそうなったのか?」を掘り下げている。
だから、この本は面白いにちがいないと確信してました。だって興味あるもん。

なのになんで今まで買わなかったのかって?
ハードカバーは場所をとるからだよ!
これだけ売れてりゃ絶対に文庫化すると思って、待ってたんだよ!
(天文学系の本は、文庫化する自信がないのでハードカバーでも買います)

それは人種の差ではなく、環境の差である

この本の内容を一言で表現すると、これに尽きる。

なんでアメリカ先住民やアボリジニやアフリカの人々が、ヨーロッパやアジアを侵略して征服するのではなく、その逆になったのか?
それは、人種に差があったからではない。
アメリカ先住民やアジア人やアフリカの人々が、ヨーロッパ人よりも人種的に劣っているという「差」があったからではない。
彼らが歴史を積み重ねてきた環境(正確に言うと、大陸の動植物や形など諸々の条件)に、差があったからだ。

とても…面白かったです…!

自分が研究し続けてきた内容を、一般の人が読めるように書くのは、本当に難しくて、すごいことだと思うよ

大学時代、サイードの『オリエンタリズム』上下巻を買ったことがあるんですよ。
いろんな授業で引用されてて、
「今の文系の学生なら、常識として読んどけ」
って先生にも言われたから。

でも、まーったく内容を覚えてないです。
めちゃくちゃ読みにくかったんですよ…。

確か、基本的な主張は第1章に書かれてて、あとはひたすら、論拠となる古今東西の資料を引用しながら、「これがこうなって、こうなったんですよ」という内容だった気がする…。
(あまりにも読みにくくて読むそばから忘れてしまったので、合ってるか自信がない)

だから、私の「オリエンタリズム」の理解は、授業で聞いた簡単なまとめです。
ぶっちゃけ、論文を書くのでもない限り、その程度の理解で大丈夫でした。

私「友達と居酒屋に行ったら、店員さんがアラビアン・ナイトみたいな衣装を着てて」
先生「…」
私「店員さんから、『料理をかき混ぜる間、ご一緒に魔法の呪文を叫んで下さい!』って言われたんですけど」
先生「…」
私「アラビア語のアルファベットを、ただ順番に叫んでるだけでした」
先生「嫌ですねぇ!まさにオリエンタリズムじゃないですか」
私「日本イコール忍者みたいなアメリカ人と一緒ですよね、こういうの」

という感じで。
(先生には、なんで自分の教え子がそんなくだらん店に行ったのかという目で見られた)

話がズレたけど、『オリエンタリズム』は、研究者同士が読んで引用したり批判したりするための内容だったんですよ。
だから、論拠となる資料が延々と出てきたんだけど、研究してない人間が読んでも「???」だった。
「いつ、どこの国で執筆された、どれそれという芝居の脚本には、こういう用例が…」みたいな内容だったし。

でも、『銃・病原菌・鉄』は、読みやすいです!
もちろん、作中ではいろんな資料を引用してるんやけど、読みにくさを感じさせないですよ。
ストーリーや躍動感を感じさせる引用だったり、一般の人でも知ってるような単語や固有名詞を使ってたりするの。
うまいなーと思った。

難しい内容を、人にわかりにくい専門用語を使って書くのは簡単なんです。
一般の人にわかりやすく、それでいて面白く、読みごたえのある内容に仕上げるのは、とっても難しいんです。
だから、この本はすごいと思うよ。

ちなみに私がとても気になった内容は、日本における漢字の立ち位置について

興味を持った人には、ぜひとも実際に本を読んでいただくとして。
本筋とは関係ないけど、読んでて気になった内容がある…。

日本語にとっての漢字は不合理か?

それは、日本人がなんで漢字を使うのかという話。
アメリカ人である著者にとっては、かな文字という音節文字がありながら、わざわざ書きにくくて膨大な量を覚えなければならない漢字を併用するのは、不合理きわまりないものに見えるようだ。

たとえば、中国文化の威光は、日本や朝鮮半島では依然として大きく、日本は、日本語の話し言葉を表すには問題がある中国発祥の文字の使用をいまだにやめようとしていない。
(下巻 P.230)

うーん…日本語には同音異義語がものすごく多いから、漢字がないと大変なのよね…。
ハワイ語も同音異義語が多いんじゃなかったっけ。
アルファベットの世界で生まれ育った人には、こういう風に見えるんやなぁ。

もし漢字が禁止されたら、膨大な学問の用語を外国語(たとえば英語とか)で学ぶことになったりして。
それに、単純に文章量は増えると思うよ。漢字を使った方が簡潔にまとまるから。本が重たくなりそう。
(積極的にハングルの使用を進めている韓国では、同じ内容の本でも漢字を使うのとハングルを使うのとでは分厚さが全然ちがってくるそうだ)

かな文字と漢字をやめたら、どうなったか?

そういえば、昔、テレビでこんな番組を見た。

GHQに占領されていた時代の日本では、とある小学校で「日本語をアルファベット(ローマ字)に置き換える」という試みが行われていたという。
その学校の児童は、ローマ字の教科書で授業をし、ローマ字でノートをとり、友達との手紙もすべてローマ字を使った。
とにかく文字として書く日本語を、すべてローマ字で書いたわけだ。

しかし、この小学校の児童は、どうにも一般的な日本の小学生に比べて、成績が悪いようだった。
日本語のローマ字化を進めたいと考えていたらしいGHQは、この小学校と他の小学校の児童の成績を比べるテストを行った。
その結果、国語だけでなく算数のように「語学とか関係なさそうなジャンル」でさえ、通常の日本語教育を受けた児童が高い点数をとった。

テストの結果を受けて、GHQは日本語のローマ字化をあきらめた、みたいなナレーションで番組は締めくくられた。

本当にローマ字を使う以外は他の学校と同じ教育だったの?とか、いろいろ詳しく聞いてみたい話ですが。
いきなり「合理的」な方法に切り替えても、いい結果は出ないようだ…。

余談:日本人あるある

ちなみに、この本では、ミケーネ文明の線文字Bが単語末尾の子音を省略しまくる話の中で、

日本人が「l」と「r」を区別しないだけでもわかりづらいのに、
(下巻 P.47)

と書かれてて笑ってしまった。
日本人のLとRが一緒くたな件は、やっぱ有名なんですね!