Kindle書評 『わたしを離さないで』と『VANISH 自己消失 デジタル時代に「完璧な失踪」は可能か』

ジョジョの名台詞のひとつ、
「おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか?」
を、とりさんの言葉に翻訳すると、
「あんたは今までに本を何冊読んだか覚えてんの?」
って感じです。覚えとらんわ!

Kindleの場合、何冊ぽちったのかがMy Kindleで一目瞭然ですね!
あまぞんのサイトからアカウントサービスにログインして、My Kindleに進むと、今までにぽちったKindle本の一覧やら、端末の管理やらができます。端末間でのしおりの同期のオンオフもできるよー。

今朝の段階で79冊をぽちっていましたが、このうち積ん読が何冊あるのか自分でもよくわかりません。
積ん読の消化、さくさくいってみよー。

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

カズオ・イシグロ、学生の頃から知っていたのに、きっかけがなくて1冊も読んだことがありませんでした。
作品ごとにどんどん文体を変えていく作家だそうです。
この本の文体はすんなり読みやすかった。翻訳だからどんだけ変わるかわかんないけど。

主人公は、介護人という仕事をしていた女性キャシー。
ヘールシャムという場所で育った彼女が、自分の半生を回想する形で、この話は語られる。
そして、ヘールシャムとは何だったのかが次第に明らかにされていき、ヘールシャムの背後に横たわっていた問題が、最後の方で読者に突きつけられる。

ひたひたと悲しみが募る話

抑制の効いた口調で、キャシーは淡々と語る。
だから余計に悲しくなる。ひたひたと少しずつ水が溜まっていくように、読んでいてちょっとずつ悲しくなっていく。

清水玲子のSF漫画『輝夜姫』も似たような題材が出てくるのに、話の設定や印象は全然ちがうよね。
輝夜姫の方は誰も運命を受け入れない。どす黒くなってでも生き残るために闘い、権力を奪い、ほしいものを手に入れようとする。だから大勢の人が殺されたりレイプされたり、派手なアクションとともに残酷な展開が続く。

(白泉社の漫画、早くKindle化してほしい…)

『わたしを離さないで』は、そうじゃない。
皆、そういう点では普通の子どもたちだったのだ。
あるいは、輝夜姫における晶(あきら)のような存在がいなかったから、彼らはかぐや姫に果敢に求婚して波乱の人生をたどる男たちのようにはならず、用意された運命を静かに受け入れ、死んでいく。
SFやファンタジーではなく、本当に今の時代にありそうな設定の話。

ぜんっぜん関係ないことなんですが、この本のタイトルを見るたびに、必ず谷山浩子の「わたしを殺さないで」という歌のメロディーで読み上げてしまうよ…。
だって言い回しもそっくりだし、文字数も同じなんやもん。

Evan Ratliff『VANISH 自己消失 デジタル時代に「完璧な失踪」は可能か』

2009年のUS版「WIRED」の記事を、本にしたもの。横書き。
海外版のWIREDから、特に評判のいいノンフィクションの記事を、「WIRED Single Stories」としてKindle化しているそうです。その中の1冊。

雑誌の長めの記事を本にしているので、Kindleでちょろっと読むのにちょうどいい長さかも。これくらいの長さって、ネットで読むには長すぎるし。
お値段も普通の本に比べたら安くなるよねー。

別人としての人生を構築することは可能なのか

とある記者が、偽名のカードやSNSアカウントをつくり、自分の情報を追ってくる全米の人々から逃げ続けるというノンフィクションです。
いやーすごい。何がすごいって、誌上で「この記者が行方をくらますから追跡してね!捕まえたら賞金だよ!」って企画を発表したら、またたくまにそのへんの人たちによって、この記者の家族構成から彼が雇っているキャットシッターの名前まで、さらに過去の居住歴や趣味や持病といった情報も次々に暴かれていったことですよ。ネットのおかげで何もかも丸裸。

どこのATMでいつお金を下ろすか(カメラに自分が写ってしまう)、いかにして身分証明書の提示を逃れるか、どこまでIPアドレスを偽装するか…逃げる記者の方も必死です。
IPアドレスをもとに冤罪で逮捕して自白を強要してた事件が思い浮かびますね…こんな軽い読み物にもIPアドレスの偽装の話が出てくるのに、なんで知らないの警察の中の人…。

それにしても、今のご時世、「生まれ変わってやり直す」ことは、こんなにも困難になっているのか…と思わずにはいられない。

自分の性格をちょっとずつ変えて生まれ変わることはできても、自分にまつわるもろもろのデータを入れ替えることは、かくも難しく、たちまち他人の手で暴かれてしまう。