泉鏡花 『海神別荘』が意外と面白くて妄想をかきたてられる件

Kindleストアのおかげで、久しぶりに読み返しました、これ。
泉鏡花の『海神別荘(かいじんべっそう)』です。

Kindle本だと、青空文庫なので無料↓

紙の本をお求めなら、岩波文庫↓

24〜25歳の頃にいっぺん岩波文庫を買って読んだんですが、先日、Kindleストアで本を探してたら偶然見つけたの。
私がこれを読んだきっかけは、カーラ君(川原泉)のエッセイでしたけど。

久々に『海神別荘』を読んだら、なかなか面白かったので、それについて書くよ!

だいたいのあらすじ

お話は、脚本形式で書かれています。

とある漁師が、「海の幸やらなんやらいっぱい自分にくれたら、うちの娘をやるぞ」みたいなことを、海の底に棲む公子(乙姫の弟らしい)に向かって言っちゃったばっかりに、大量の宝石や魚介類と引き換えに、自分の美貌の娘を海へ沈めることになる。
海の公子は、「俺は美しい嫁をもらうことになったぞ」なんて言って、使いの者を迎えにやるかたわら、配下の侍女やら海坊主やらと一緒にそわそわと話したり遊んだりしながら彼女の到着を待っている。このへんから話が始まる。

美しい娘の方は、龍神への人身御供になったような心境でやって来る。
いざ海の公子の御殿に着いてみたら、ちょうど公子はサメを追い払ったところだったので武装している。
武装中の公子は、恐ろしい毒龍の姿になるので、恐怖のあまり、へたりこむ娘。

少し落ち着くと、娘は「自分の元気な姿を、陸にいる父や村の人々に見せたい」と言い出すんだけど、公子は「あなた、それ、見栄でしょ。見せびらかしたいだけでしょう」と見抜いて、行く必要はないだろうとさとす。
(何しろ御殿なので豪華だし、公子は彼女に大きな宝玉を与えたりしていたので)

それでも「ひと目、父に会いたい」と引き下がらない娘に、とうとう公子は真実を告げる。
「気の毒なので言わずにおきたかったのですが、あなたはもう、人間ではないのです。蛇になってしまったのですよ。あなたに虚栄心がなければ、こんなこと言わずに済んだのに(嫌味)

えっ、でも私、人間の姿に見えるんですけど!信じられないんですけど!と混乱した娘は、陸へ戻ってみたけれど、人間から見た彼女はもはや蛇の姿をした海の化け物。
父親はその蛇が娘だと気づかないし、娘と引き換えに手に入れた財宝のおかげで若い妾を囲っていて、娘に鉄砲を向けてくる。

公子の元へ戻ってきた娘は嘆き悲しみ、泣いて死ぬと言う。
「あなたのことがわからない故郷などに何の未練がある」
と公子はいらだち、周りの侍女なども、
「若様は悲しいことがお嫌いです。ここは楽しい場所ですよ。泣くのをおやめなさい。若様は性急な方なので、ご機嫌をそこねたらどうなるかわかりませんよ」
とあわてて娘をいさめるんだけど、娘は「どうせ全部あなたの魔法でしょう」「いっそ殺して下さい」と余計なことを言う。

そんなら殺してやるわ!と公子は娘に手をかけようとするんだけど、その時、間近で公子の顔を見た娘は、
「あなたはこんなに美しい方だったのですか」
と衝撃を受け、故郷のことも全部忘れてしまって、公子のことしか目に入らなくなる。

公子は彼女を殺すのをやめ、お互いの血を飲み交わして終生の契りを結ぶ。そして恐らくそのまま閨へ向かうために、ふたりで舞台から退出していく。

公子の視点で話が進むよ

古めかしい文体と、漢字にカタカナのルビをふる表記(例:緑宝玉と書いてエメラルドと読む)が、とてもよく似合うストーリーです。幻想的。
個人的には、娘の髪型の描写で「毛巻島田に結う」とか出てきた瞬間、めっちゃ現実に引き戻されたりしましたけどね…。脳裏に時代劇がよぎる…。

龍神への人身御供に娘が差し出される、という話は昔話でよく聞きますが、『海神別荘』を読んでいて面白かったのは、娘を迎える龍神(公子)の視点で話が進むところです。

娘の方は死ぬ覚悟で、村人たちから捨小舟(すておぶね)に乗せられて海に出てきた。公子の使いが迎えに来た時も、彼女は自分が死んだと思っている(蛇に変わっているので、確かに人間としての彼女は死んでいる)

一方、公子は今か今かと娘の到着を待っていて、海坊主を呼び出して「彼女の父にどれだけの宝物を送ってやったか」と確認したり、娘の護送が陸地での罪人の引き回しに似ていると聞かされて「それはいかん」と資料を調べさせたり、娘が映し出された鏡を眺めて彼女を褒めたたえたり、侍女たちとすごろくをして時間をつぶしたり。
そわそわしている印象です。

なんか、こう…ニヤッてしてしまう。
彼女を迎えるのが、そんなにうれしかったんかい、と。

娘が来るのを待っている場面だけで、話の半分を使ってます。

もっともなことを言っている

父の強欲のせいで海に沈められた娘は、気の毒っちゃ気の毒だし、嘆き悲しむ彼女を殺そうとする公子が一見とても冷淡に見える。
でも、よく読んでみると、公子はけっこう、もっともなことを言っているのです。
そのへんも面白いと思った。

たとえば、娘が「陸に帰って、父に自分の元気な姿を見せたい。きっと心配しているでしょう」などと訴える時など、公子はこんなことを言うわけです。
「あなたの父が本当にあなたを大事に思っているなら、財宝は返すから娘のことは勘弁してくれと頼めばよかったでしょう。でもあなたの父はそうしなかった」
「かわりに、あなたの父は財宝で若い妾を囲った。今の生活を手放してまで、あなたを守ろうとはしなかった」

言われてみれば、おとーさん、ひどいな…。

正論だから言っていいってわけでもないけどね!容赦ないね!

続きが気になるところで終わる

あと、海の御殿が舞台なので、基本的にきれいなものばかり出てくるし、幻想的だし、ファンタジーが好きな人にとっては想像するだけで楽しくなりそうな話です。
最後にお互いの血を飲んで契りを結ぶとか、妖しい雰囲気もあったりして。

てか、公子の美しさにすべてを忘れて大団円って急展開ですよね!

話がそこで終わっちゃうから、「その後どうなったの?」って思って、妄想をかきたてられるんですよ。誰かがすでに二次創作してそうな感じ。
寝る前に読んで、あれこれ想像しながら寝たら、面白い夢が見られるかも。

余談:乙姫様も見てみたい

この話には乙姫は出てこないのですが、公子は乙姫の弟という設定なので、会話の中に乙姫の話が出てきます。

…『海神別荘』の乙姫は、なかなかいい性格してそうですよ。
だって乙姫のつくった本が、『森羅万象のすべてが記載されているけど、予備知識がないと真っ白にしか見えない本』ですからね!
公子本人も読むことができず、博士に読ませながら「(予備知識がないので読めなくて)恥じ入るね」なんて言っちゃう始末。なんつういやらしい本をつくるのよ、乙姫!

この乙姫と公子とどんな会話をするのか、見てみたいわー。