沢村凛 『黄金の王 白銀の王』を読んだ

タイトル:黄金の王 白銀の王
著者:沢村凛(さわむら・りん)
レーベル:角川文庫

小飼弾氏の書評を読んで興味を持ち、フォロワーさんからもおすすめする感想ツイートをいただいて、買ってみた小説です。

漢字の地名・人名などなどが登場し、いかにして国を治めていくかという政治を描くファンタジー小説ということで、十二国記が好きな人にはおすすめできる良作でした。読み終わったあと、うまい!って思った。

殺し合いのかわりに共闘を

あらすじは、ひとつの国の中で敵対して憎み合い、殺し合ってきたふたつの氏族の、それぞれの頭領が、国をひとつにするべく共闘を試みるというもの。もっと詳しく知りたい人は、あまぞんや他の書評をチェックして下さい。
憎しみを乗り越えて、分かたれた氏族を再びひとつに戻そうとする理由は外敵。海の向こうの大陸で国々が統一され、自分たちの国も侵略されようとしているその時に、内部分裂を起こしている暇はない!というわけです。

しかし、憎い相手とともに国を守ろうと決めた当人である、それぞれの氏族の頭領たちの心の中でも、折にふれて相手を殺したいという思いがこみ上げる。周囲の者たちの反発や渦巻く陰謀はそれ以上で、それぞれの頭領はさまざまな罵倒に耐え、陰謀を乗り越え、身の回りの大事な人を失いもする。
それを、ことさらドラマチックに描くのではなく、淡々とした文体でつづっていくことで、かえってその生々しさが伝わってくる。読んでいて、人々の営みの積み重ねを実感させられるのです。

もしも私が、この国のどちらかの氏族の人間だったとしたら、国をひとつにするべく共闘するという、この展開に、どんな反応を示したのか。
周りの人に調子を合わせて、陰で罵倒してしまうかもしれません。国をひとつにするなら、敵対する氏族を滅ぼせばいいじゃない、なんて思ってしまうかもしれません。
自分の倫理観やら正義感やら、そういうものを考えさせる内容です。

固有名詞には要注意?

あまぞんのレビューを読んでいると、軒並み好評価。

ただ、その中でも、
「数少ない欠点のひとつとして、地名や人名がめちゃくちゃ読みにくい。常にふりがなをつけてほしいくらいだ」
ということが挙げられていましたが、私は平気でした。

確かに「鳳穐(ほうしゅう)」とか「稲積(にお)」とか、めっちゃ読みにくいねんけど、十二国記や彩雲国物語で慣れたのか、すんなり読み方を覚えて読み進むことができました。ここは個人差が出そうですね。

もうひとつ、表紙の絵がストーリーと合ってない!という感想もちらほら見かけましたが、これも私は気にならなかったです。あまり興味がなかったとも言えるけど…。

ふたつの王才

敵対するふたつの氏族の頭領は、それぞれが異なる王才の持ち主として描かれています。
一方は、陰謀や思惑のはびこる城内で、根回しや建前や飴と鞭を巧みに使い分け、タイミングを読みながら危険因子を潰し、時間をかけて詰めていく。
一方は、戦場で敵対する氏族の兵や下賤の者までもをひとつにまとめあげ、自ら陣頭に立ち、叛旗をひるがえして立てこもった人々すら己の語りで陥落させる。

このふたりの頭領が共闘を選び、お互いを支え合い、国を導いていく。
異なるタイプのリーダーを味わえるところも、この小説の美味なところです。

彼らの選んだ共闘という道が、どんな方向へ国を導いていったのか、彼らはどんな人生を送ったのか、それは本を読んでのお楽しみ。

オタク受けは、しないけど

十二国記のような、この世界にハマっちゃう!という中毒タイプの小説ではありませんが、すごくうまい!と思います。深いテーマを見事に描いて、ひとつの小説として仕上げてきたなという感じです。
ハマるという逃げ道は与えてくれないけど、魔法も天啓も奇跡も起こらないファンタジーだけど、こういう本を読まないでいるのはもったいない。そういう小説でした。