坂口恭平 『TOKYO 0円ハウス 0円生活』を読んだ

タイトル:TOKYO 0円ハウス 0円生活
著者:坂口恭平(さかぐち・きょうへい)
レーベル:河出文庫

もう何年も前のことです。
日経新聞の夕刊だったと思うのですが、生活欄に、いろんな人が交代で、自分が日頃考えていることや、今までやってきたテーマなどを書くコーナーがありました。
長方形の枠で囲われただけの、あまり目立たないコーナーだったと思います。

ある日、たまたま読んだら、ホームレスの人たちのダンボールハウスや、ブルーシートハウスの話が書いてありました。
書いていたのは、名前を知らない男の人で、こんな話だった。

記憶に残っていた、とあるコラム

建築学科に進んだけど、でかい建物をただ建てることに興味が持てず、行きづまっていた。
そんな折、ひょんなことから、
「自分で全部つくれて、常に改良していくことができるダンボールハウスって、実はすごいんじゃないのか」
と気づき、さまざまなダンボールハウスやブルーシートハウスを取材していく。
そのうち、ますます既存の建築に疑問を抱き、

「人が生きていく上で必要なのは、こういう風に自分で必要に応じてカスタマイズできる家なんじゃないのか」
「今の社会では、自分の家が何でできているか、どうすれば修理できるかもわからないじゃないか」

と思うようになったと。

この話は、とりさんの頭の中に、ずーっと残ってました。
なんせ、シンプル・ライフとかに強く反応する人間だもんで。

そのコラムを書いた人の名前は覚えていなかったのですが、わかりました。
彼の最新作が、この本です。
たまたま書店で見つけて、背表紙に書かれたタイトルに何か心ひかれるものがあって手にとってみたら、
「あ、これ、何年も前にあの新聞に書いてた、あの人やん?」
と気づきました。すぐ買いました。

鈴木さんという、ひとりの人の記録

ある日、隅田川のブルーシートハウスで、女性がおいしそうな音を建てて料理をしているところに出くわした著者。
それは、鈴木さんとみっちゃんというカップルが住んでいるブルーシートハウスだった。
ふたりの様子から、今までにない雰囲気を感じた著者は、その後、何度も彼らを訪ねる…。

これは、今までたくさんの「0円ハウス」を訪ねてきた著者が、恐らく1番驚いて感銘を受けたのであろう、「鈴木さんの0円ハウス」の記録です。
というか、鈴木さんという人自身の面白さの記録です。

ギブ&ギブ&ギブでどんどんミラクルが起きる鈴木さんの人生とその人生哲学、
工夫して生活するのが面白いのだと言って実際に教えてくれる数々の工夫、
不思議なくらい人との縁がつながっていく驚異のコミュニケーション能力…。
話を聞きながら、著者が興奮していくのを感じることができる。

なぜ著者は、0円ハウスに興味を持つに至ったのか

鈴木さんの話と絡めて、著者の話も語られる。
建築に興味を持った子ども時代の話や、
大学に入って行きづまったこと、
路上生活者の家を取材するようになったきっかけ、
自分のホームレスに対する先入観をくつがえした数々の「0円ハウス」、
「0円ハウス」の面白い人々…。

さらに、写真集『0円ハウス』を出すまでの経緯や、その本を持ってヨーロッパへ売りこみに行き、美術館やら雑誌やらで好意的に迎えられて展示などをするに至った話も書かれている。
このへんの話も面白い。

とりさんのイチオシは、著者が小学生の頃の話。
ドラクエが流行っていたので、自分で大学ノートにドラクエの世界を描いて、それを使ったゲームがクラスで人気になったという話です。
地図を描き、街や洞窟などにそれぞれ入った時の地図も描き、武器や薬などの各種アイテムもデザインして値段や効果を設定し、敵も100種類ほどデザインして設定を決めてあったらしいですよ。
すごすぎ。そのエネルギー、クリエイターやん。

家ありきではない、人ありきなのだ

この本が言いたいことを私なりに表現してみると、
「家に合わせて生活するのではない、生活に合わせて家をつくるのだ」
という感じ。
しかし、難しい言葉や理屈は一切出てこない。ただ面白い。
面白いと思って読みながら、「言われてみればそうかも」と自分でも考える、そんな本です。