伊東乾 『指揮者の仕事術』を読んだ

著者:伊東乾(いとう・けん)
タイトル:指揮者の仕事術
レーベル:光文社新書

著者のことを知ったきっかけ

私は社会人になった頃から、日経ビジネスオンライン(以下、日経BO)の無料会員に登録してまして。
平日は毎朝、日経BOから届くメルマガを見て、そこに紹介されている面白そうな記事をクリックして読んでます。
(朝は出勤前にネットする時間を確保している)

この日経BOに連載している執筆陣の中でも、あっちこっちに飛びまくる変幻自在な引き出しを持つ人気執筆者のひとりが、伊東乾です。
作曲家で指揮者、現在は東大に研究室も持っている人で、著書も多数。
ついったーも熱心に使ってはって、自分のアカウントが含まれているツイートには、こまめにリプライしてくれはります。

先月、この著者の最新刊である『指揮者の仕事術』が出て、どれどれ買いに行こうかと思っていたところ、何も知らない父がたまたま書店で見つけて先に買っていたのでした。
父が買ってたわーとツイートしたところ、それを見た伊東乾さんご本人から、「お父上に深く感謝します!」とものすごく丁寧なリプをいただいてしまいました。あわわわ。
手に汗をかいてしまいました。ありがとうございます。

で、その本を父から借りて、今日読み終えました。

音楽を科学する音楽家

クラシック関係者の著書は何冊か読んだことがあります。
年末には佐渡裕のエッセイを読んだし、『のだめカンタービレ』も家族で全巻そろえました。
オーボエ奏者・茂木大輔のエッセイも、伊東乾が批判している最相葉月『絶対音感』も図書館で読みました。
五嶋みどり関連の本もどこかで読んだかもしれません。

でも、そういった本とは全然ちがう趣の本でした。
一言で言うと、「ものすごく当たり前のことを言葉に直して言ってる」。
あと、安直なキャッチフレーズっぽく言うと、「音楽を科学してる」。

指揮者として大切なことは、経営者として大切なことにも通じるのではないか?オーケストラという大人のプロの集団をまとめていく指揮者の仕事の仕方は、経営者の参考にもなるのではないか?

ということが冒頭で書かれていて、実際そういう話がメインです。
その内容というのが、「当たり前のことをきちんと書いている」ということなのですが、それ以外にも面白かったのが「音楽を科学してる」部分。
特に音響の話です。

教会建築がロマネスクからバロックに変わり、建物の構造や高さが変わることによって、教会内で奏でられる聖なる音楽の音響がどのように変わっていったか、それに対して当時の人々がどのように対応していったか。
また、プロテスタントの登場によって教会内に多くの信徒席が設けられ、それによって音響効果がどのように変わっていったか。

ヴァーグナー(ワグナー)の話とか面白かったね!
作曲も作詞も指揮もすべて行った彼が、自分の豊富な経験をもとに、どれだけ多くの計算を行い、緻密に練り上げたオペラをつくりあげたのか…。
バイロイト祝祭劇場の構造の話とかも…こういうの知ってから現地に行くと、面白さが全然ちがうだろうねー。
大学時代、バロック建築の授業で、先生が似たようなこと言うてはりました。

「いくつか大聖堂を見るともう飽きちゃうっていう人が大半なんやけど、教会建築の歴史とか勉強していくと見る目が変わるから、絶対に面白いよ」

って。

第九の背景にあった世界の変化

第九の話も面白かったですねー。
その難解さゆえに、本家本元のヨーロッパでは日本のようにしょっちゅう演奏されることがないという第九。では、どうして難解だと思われているのか?

…ぶっちゃけ私、第九の歌詞は通り一遍の日本語訳しか見たことなかったし、それ以前にドイツ語の発音もできなくて、歌詞も覚えてなかったんですよ。
(母と弟は第九を歌えるが、私は歌えない)
だから、日本語訳を見て、
「あぁ、歓喜とか楽園とか天の父とかそういう、キリスト教の聖歌って感じ」
というくらいにしか思ってなかったんですけど。
しかし当時は天動説が否定され、今まで信じられてきたキリスト教的世界観がぐらぐらとゆらいでいた。
そんな時代背景などを踏まえて歌詞を考察してみると、全然ちがう解釈が現れる…。

いやー私、こういうの好きなんやわー。

「当時の時代背景などが新たにわかってきました。その事実をあてはめてみると、今まで表面的にしか解釈されていなかったものが、まったくちがう様相を帯びて見えてきます」

みたいなの大好きなんですよ!
たとえば、

「17世紀のこの画家はくもり空の絵ばかり描いていて、精神的に暗い奴だと長らく思われてきた。ところが当時はマウンダー極小期と呼ばれる小氷期で、世界的に気候が寒冷化し、空が晴れることもほとんどなかった。つまりこの画家は暗かったわけではなく、ありのままの風景を描いていただけだったのだ」

とか。
(ブライアン・フェイガンの著書の世界ですね)
そういう、「実はそうだったのか!」って目からうろこが落ちる話、大好きです。

というわけで面白く読めました。

自分の中に新しい引き出しができて、今までとはちょっとちがう目でものを見ることができる。
それが知的好奇心を満たす(勉強する)ことで得られる効果だと思ってるんですが、この本からも面白い何かを得られると思いますよ。

※「指揮者の裏側・舞台裏、師匠と弟子の熱い会話」みたいなストーリーは、メインではありません。
そういうストーリーを求めている人や、のだめみたいな面白活劇が読みたい人は、佐渡裕のエッセイなどの方が向いてると思います。

著者ご本人からお返事が!

ブログ更新したよーとツイートした40分後に、それを見つけて下さった伊東乾さんご本人から、「ブログ拝読しました」とリプいただいてしまいました…!

有難うございます!感謝をもって拝読しました。「当たり前」の事を「科学的」にも確かめてる内容アレは全部なーんもないところから自分たちでゼロから作った、仲間たちとの20年のオリジナルです。欧州のどこにも最初はツテはありませんでした。今は友人に恵まれています^^

その時のツイートは残っていないようですが、ついろぐにはログがありましたよ)

ありがとうございましたm(_ _)m